“気候変動や大気汚染など、環境問題に対する関心が地球レベルで高まりを見せつつある昨今、改めて自然の大切さを考える機会が増えてきています。そうした中で、昨今トレンドになっている言葉の1つに、バイオフィリアがあります。バイオフィリアは、日本語では「生物親和性」などと訳されますが、「生物」や「自然」などを意味する言葉である「バイオ」に、ギリシア語で「身近なものへの愛」を意味する「フィリア」を合わせた造語です。
この言葉は、環境心理学の分野において提唱されているバイオフィリア仮説に基づいています。この仮説は、人間は自然や生物を愛する性向を生まれながらにして持っているというもので、教育の現場などにおいてこれを上手に活用すれば自然を大切にする心を育て、環境保護の気運をいっそう高めることができるのではないかというのが基本的な主張です。
バイオフィリアは、産業界からもさまざまなかたちで注目を集めています。中でも高い関心が寄せられているのが、建築や空間デザインなどにおける応用です。
室内装飾には多種多様なバリエーションがありますが、基本的なコンセプトはその空間で生活する人に快適さを感じさせることを目指すという点で共通しています。これにバイオフィリア仮説を組み合わせると、自然や生物をインテリアに取り入れることで、そこに住む人や働く人の心をポジティブにして、空間への愛着を増すことができるのではないかという考えが生まれます。
具体的な手法としては、室内に植木鉢や水槽などを置く、床材や壁材などに自然素材を用いる、屋外の自然風景がよく見えるような位置に窓を取り付ける、などがあります。いずれも個々の手法自体は目新しいものではありませんが、従来よりも自然とのつながりをいっそう強く意識し、常に動植物が視界に入ってきたり、気配を感じたりすることができるように配置を考える点に新味があります。たとえ工業製品であっても、自然風景をプリントしたボードを壁材に使うなどの工夫も見られます。
また、オフィスなどでは室内の一角を完全なグリーンゾーンにするといった大胆な空間デザインも注目を集めています。壁一面に植物を這わせたり、自然石をそのまま利用した椅子などを置いたり、植物図鑑や自然写真集などを集めた図書コーナーを設けて仕事の合間に閲覧できるようにしたりなど、その場所で休憩することによって働く人々が「癒し」を感じれば、仕事の生産性アップも期待できるという考え方がこのデザイニングの根底にあります。”